バッティング

【打つのも、投げるのも】壁に対する考え方を変えてみる

こんにちは。
ベースボールバイブルの東です。

この日本において筋肉研究の第一人者と言われる東京大学大学院教授の石井直方先生。その石井先生を師事し、最近テレビにもよく出ている筋生理学やトレーニング科学を専門とされている近畿大学生物理工学部人間工学科准教授の谷本道哉先生。その2人が出している本がこれです。

使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120

谷本先生が書かれて、石井先生が監修されたこの『使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120』。この本の初版は2008年なので10年前に出た本なんですが、今読み返してもやっぱり素晴らしいんですね。

その中でもこの本の第4章『全身を使った反動動作「うねり動作」のしくみ ー四肢を振り回すスポーツの「カラダ使いの基本」』は野球選手にとって非常に役に立つものだと思いますので少し紹介させていただきます。

まず最初にこんなことが書かれています。

野球の投球や打撃などで、下肢から動作してその力を上肢の先端にまで伝えていく体の使い方を「うねり動作」と呼びます。

このうねり動作もやや複雑ですが「全身を使った反動動作」です。野球に限らず手足を振り回す多くの競技の基本動作になります。野球選手がスポーツ万能であることがよくありますが、その理由の一つとしてこの「うねり動作」ができていることが挙げられるでしょう。

ここでは、この「うねり動作」という基本動作のしくみについて解説します。

使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120

この言葉を逆から捉えると「うねり動作ができていないからスポーツ万能ではない」と読み取ることもできますよね。そこで今日はこの「うねり動作」ができるようなるための1つのポイントを紹介します。

では、まず、この事実を知ってください。

「ボールは足で投げるんや!」

打ったり、投げたり、叩いたりといった動作は最終的な外部への力発揮は上肢で行いますが、その運動エネルギーは主に下肢で腰(骨盤)を回すことから生じます。(※)たとえば野球の投球動作では、ボールに与える運動エネルギーのおよそ5〜7割程度が下肢から伝えられていることが、スポーツバイオメカニクスの研究から明らかにされています。

速球投手のことをよく“豪腕”と呼びますが、その速球のエネルギーの半分以上は脚から生み出されているのです。400勝投手の金田正一氏は「ボールは足で投げるんや」といいました。「足で投げろ」「腰をしっかり入れろ」などとよく言われますが、これは「下肢の力で骨盤を回す動作をしっかりと行う」ことを意味しているのでしょう。

※骨盤の「回転」だけではなく「並進運動」もうねり動作に貢献しますが(バスケットボールのチェストパスなどは並進の要素が主)、ここでは主要な要素である回転運動のみに着目して説明をしていきます。

使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120

このように大きなエネルギーを生み出そうと思ったら下肢の力で骨盤を回せるようにならないといけないわけですね。そこで、次は骨盤の回転を生み出す3つのステップを学んでみましょう。

骨盤の回転を生み出す3ステップ

まずはうねり動作の起点となる「骨盤の回転」から見ていきましょう。下肢による骨盤の回転は主に以下の3ステップからなります(右投げの場合として説明します)

①軸足の蹴り(図4−1①)
軸足の右足による蹴り出しから動作を開始します。骨盤を左回転させながら前方に押し出します(並進運動)。投手がマウンド上で軽く弾むのは(つま先が浮くと反則)、しゃがみこみジャンプのように往復運動のSSCを使ってプレートを強く蹴るためです。

※伸張―短縮サイクル運動(SSC)とは?
人間は、走ったり、跳んだりする時、地面に対して、自らの体重を受け止め、もとの状態に跳ね戻す能力を持っている。この能力は、着地する時の衝撃から運動器官の損傷を防ぐためだけではなく、様々なスポーツ場面において優れたパフォーマンスを発揮するためにも重要である。例えば、陸上競技の跳躍種目における踏切動作、またはバスケットボールやハンドボール等の球技種目におけるフットワークは、極めて短い時間のなかで、跳ね返るように方向変換する運動能力が要求される。このような踏切動作やフットワークを行っている時、ふくらはぎの筋肉がどのように収縮しているのかをみてみよう。ふくらはぎの筋肉の一つである腓腹筋は、アキレス腱という人間の体のなかで一番大きい腱と直列に付着しており、これを腓腹筋―アキレス腱複合体と定義している。この筋腱複合体は、地面に接地すると同時に強制的に引き伸ばされながら身体のもつ運動エネルギーを受け止め、その後、縮みながらキック動作を行っている。このように筋腱複合体を伸ばしてから縮めるような運動は、伸張―短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle: SSC)運動と呼ばれ、ヨーロッパを中心とした研究グループによって、そのメカニズムが明らかにされてきた。(第4回 伸ばしてから縮める:伸張―短縮サイクル運動|国立スポーツ科学センター)

②踏み込み脚のブレーキ(図4-1②)
続いて踏み込み脚の左脚の着地で①の並進運動する骨盤の左側にブレーキをかけることで左回りの回転力を生みます。この踏み込み脚のブレーキを一般に「壁」と呼びます。

③踏み込み脚の「内股の締め」(図4-1③)
さらに着地した踏み込み脚の「内股を締める」動きで骨盤に左回りの回転力を生じます。この動きはほとんどの人が意識していませんが、非常に重要です。

これらのうち①と②はよく理解されていて、蹴り脚を強くすること、踏み込み脚で壁を作ることは現場でもよく指導されています。一方、③の「踏み込み脚の内股の締め」はあまり知られていません。意識して行っている人も少ないのですが、これが骨盤回転のキーポイントとして重要な動きになります。

使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120

さあ、面白い話になってきました。

「踏み込み脚の内股の締め」

これがうねり動作を身につけるためのキーポイントなんですね。それなのに野球界では『強く蹴ること』や『しっかりと壁を作る』ことばかりに意識がいってしまっている。特に『壁』の話は重要で、この『壁』を意識しすぎるあまりに強い打球が打てないというワケのわからない方向に進んでしまっているわけです。ですから今日はその壁をぶっ壊すためにも、ぜひ谷本先生の話を聞いてみてください。

「壁」信仰の見直しの必要性

踏み込み脚の“締め”の重要性

②のブレーキをかける「壁」の重要性が強く説かれることがよくあります。特に野球のバッティング動作では、つま先を外側に開かずにかかとから踏み込んで「壁を作る」ことが古くから指導されています。確かに「壁を作る」ことは上体を開かずに体の正面でボールを捕らえやすくする上で重要ですが、それを強調しすぎるとことには問題があります。かかとを出して「壁」を強調してしまうと、踏み込み脚の内股を締める可動域がほとんど作れないので、③の「内股の締め」で骨盤を回すことが難しくなってしまうからです。(図4-2)。内股の締めの可動域を確保するためには、ある程度踏み込み脚を「開く」必要があります。

②の「壁によるブレーキ」をあまり強調しなくても③の「内股の締め」動作をしっかりと行えば、それに先立つ着地動作で②のブレーキは自然にかけられます。いわゆる「流れてしまう」、「上体が開いてしまう」ことはありません。

プロ野球選手でも一昔前には、元ヤクルトスワローズの小早川毅彦選手のように「かかとから踏み込んで」壁を作る選手が多かったのですが、最近ではバリー・ボンズ選手のように「つま先から踏み込む」選手が多くなってきているようです(つま先を一塁側から投手側の間くらいに踏み込む選手が多い:右打者の場合)

使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120

いかがでしょうか?

あなたは『壁』を意識しすぎるあまり骨盤の回転を制限してしまい、それによって内股の締め動作まで制限してしまっていたなんていうことはないでしょうか?

この本は10年前の本ですが、いまだに『つま先を閉めすぎていること』が原因で強い打球が打てないという悲劇をよく耳にします。それは本当にもったいない話ですので、今日学んだことを一度試してみてください。

ちなみにこの本は強くて使える筋肉をつくるトレーニングをたくさん教えてくれていますのでオススメです。

使える筋肉・使えない筋肉 実技編―強くて使える筋肉をつくるトレーニング法120

では、また。

 

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